吉田秀和氏の逝去




「音楽評論家の吉田秀和さん死去」 5月27日 NHKニュース

クラシック音楽をはじめ美術や文学など幅広い分野で、多くの優れた評論を手がけた評論家で文化勲章受章者の吉田秀和さんが、今月22日に急性心不全のため、神奈川県内の自宅で亡くなっていたことが分かりました。
98歳でした。
吉田さんは、大正2年に東京で生まれ、当時の東京帝国大学の文学部を卒業後、戦後まもなく音楽専門誌に連載したモーツァルトの評論で注目を集めました。
クラシック音楽の豊富な知識に基づいた独自の評論を次々に発表して、日本に音楽評論の分野を確立したほか、美術や文学など幅広いジャンルで多くの優れた評論を残しました。
また、昭和23年に、現在の桐朋学園音楽部門の前身に当たる「子供のための音楽教室」の創設にかかわったほか、茨城県の水戸芸術館の館長を務めるなど、音楽教育や文化の発展にも力を尽くし、平成18年に文化勲章を受章しました。
吉田さんは、90歳をすぎても精力的に執筆活動を続け、最近も特に体調に問題はなかったということです。


クラシック音楽好きなら大抵はこの人の著書や翻訳本のお世話になっているはずである。世代としては小林秀雄や河上徹太郎より少し後であり、音楽評論家としてはまさに最長老で大御所的存在だった。著作は多い。全集も出版されている。

西洋音楽ではバッハ、モーツァルト、ベートーヴェンを特に高く評価した。あまり極端で乱暴なことは書かない人だったと思うが、ヴィヴァルディ、サン・サーンス、プッチーニには珍しく非常にキツイことも書いていた。

つまり、彼等の音楽は作り方が俗っぽく、安直で、幼稚だったと。

また、「モーツァルト交響曲変ホ長調」という文章の中で、ヨハン・シュトラウスの「美しき青きドナウ」とモーツァルトの「交響曲39番変ホ長調」の序奏を比較し、前者は和声が単純で無性格、簡単過ぎて抵抗感や重量感がなく、飽きやすい。後者は精妙で複雑な和声進行があり、構成にも微妙の限りを尽くしていると。この違いが通俗名曲と、本当に優れた芸術音楽との違いではないかと。こうした内容を吉田氏は楽譜を例に挙げて詳しく解説していた。

学生時代にこのような文章に接した時は、なるほど、と納得するよりも、どこかインテリ特有のお高くとまった高級気取りな匂いを感じ、少々抵抗を覚えたものである。それでも、今も印象に残るほど、かなりインパクトは受けた。

しかしながら今は少し違う感想を持つ。吉田氏の次の文章に共感するからだろう。
「なぜ(美しく青きドナウのような)あんなに美しくかかれた曲に飽きるのか。僕らが生活に疲れ、苛々しているからだろうか。もっとどぎつい刺激を求めるからであろうか。ところが不幸な性分で、ぼくは音楽をぼんやりきくよりも、つい一生懸命注意してきく方が好きな質なので、ジャズなど、それなりに面白いとは思うけど、やっぱりいつまでもきいてはいられない。そうしてもう少し細かいところに気を使って、じっくり腰を据えてきいていられるようなものがほしくなる。してみると、ただ生活が苦しいとか昔の人にくらべて神経質になっているとかで、ヨハン・シュトラウスに飽きるといったわけのものではないらしい。では何が足りないのか?」

吉田氏の音楽へのアプローチのあり方と価値観は、ここにあったと思う。もちろん、こうした見解に反対な意見もあるであろう。「音楽の楽しみ方」は人それぞれだ。

吉田氏がクラシック音楽界やファンに与えた影響は少なくないと思う。概して「功」が多かったであろう。しかし、敢えて「罪」と思うことを一つ取り上げるとすれば、日本人のモーツァルトに対する過大評価をもたらした一人だと思う。

私は若い頃はモーツァルトに夢中になった時期があるけど、それでもバッハやベートーヴェン、ワーグナーほど偉大とは思えない。音楽そのものの質もさることながら、音楽史に与えた影響力、存在感は三人にはとても及ばないと思うからだ。

それはちょうど、西洋絵画における日本人のモネ、ルノワール好き、過大評価とどこか繋がっているように感じる。大きくて荘重で彫りの深いものより、軽やかで粋で透明感のあるモノに対する日本人の好みもあると思うけど。

ともあれ、98才の天寿を全うした吉田秀和氏には、お悔やみよりも、ありがとう、と私は申し上げます。
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2012.05.27 | | コメント(0) | トラックバック(0) | 音楽



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片割月

Author:片割月
和歌を愛し、音楽を愛し、花を愛し、フィギュアスケートが大好きで、歴史・社会・文学が大好きで、ジョン・レノン、八代亜紀、ちあきなおみが大好きで、クリント・イーストウッドと映画も好きで、皮肉とユーモアも好きな変わり者アラフォー熟女ですが、よろしくお願いします。
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