中江兆民の「三酔人経綸問答」
![]() | 三酔人経綸問答 (岩波文庫) (1965/03/16) 中江 兆民 商品詳細を見る |
「三酔人経綸問答」を読む。
中江兆民(1847~1901)著。明治20年(1887)集成社刊。
洋学紳士、豪傑君、南海先生の3人の男が酒を酌み交わしながら、日本国と政治の進むべき道、基本路線について議論したもの。
要約すると、洋学紳士は西洋流の民主化と非武装平和論を説き、豪傑君は軍備拡張、大陸侵略を主張。南海先生は平和外交と防衛本位の国民軍構想、立憲制から民主制への漸進的改革を唱える。
原文は漢文の読み下し調であり、現代人には難解である。しかし、岩波文庫版には現代語訳があるので助かる。
1.洋楽紳士は自由こそ人間社会の最高の価値で、これは民主制のもとでしか発達しない。そこで日本は、ます自由・平等・博愛の三原則の確立をこそ目指すべきで、軍備などは即時撤廃せよ。万一、一強国の侵略を受けたとしても、こちらは丸腰で、道義の立場で対すればよい。他の列強は放置しないだろう。本来、人間は四海同胞たるべきもの、中国人、乙国人などというのは生まれの偶然にすぎず、人間はどこの国に住んでも良いはず、と主張する。
2.豪傑君はこれを聞いて、学者の書斎の議論だと怒る。現実は弱肉強食、西洋列強はアジア・アフリカを武力で侵略し、または商権で圧迫している。たとえ小国であろうと、侵略を甘受するなど承知ならぬ。日本も軍備を整えて、強大国にならねばならぬが、資力乏しく、いきなりは無理だ。そこでアジアの一つの国、国土広くして資源豊かだが老衰して力の無い国に進出・侵略し、都を移すべしと主張。
3.南海先生は二人の主張を否定する。(当面の政策は)立憲の制度を設け、上は天皇の尊厳を強め、下は全ての国民の福祉を増し、上下両議員をおく。外交は平和友好を主とし、国体を傷つけられぬ限り、決して国威を高めたり武力を振るったりしない。言論・出版などの規則は次第に寛大にし、教育や商工業は、次第に盛んにすることだと主張。
4.奇説を期待した二人が、あまりの平凡さにあきれると、南海先生はいずまいを正し「日常の雑談なら、奇抜なことで人を笑わせるのもよいが、いやしくも国家百年の大計を議論する場合に、どうして奇抜を看板にすることが出来ようか」と締めくくる。
この本が書かれて125年が経つ。現在の日本は、中国の軍備増強、尖閣、竹島、北朝鮮、沖縄基地問題、日本の核武装論等、外交・軍事への関心が高まっている。
こうした時代だからこそ、中江兆民の「三酔人経綸問答」を読む価値があると思う。そして、125年前に議論された内容は、現代も本質的に何も変わっていないのではないだろうか。
いや、内容的には、むしろ三人の議論の方がレベルが高いかもしれない。
現代におけるテレビの討論会、国会中継、新聞の社説、ネット上の議論…勧善懲悪の田舎芝居の二分法の思考パターン、勝った負けたの稚拙さ、差別的発言や罵り合いに終わる醜悪なやり取り…。
この125年間、日本は何を積み上げて来たのであろうか?単に水ぶくれしただけであろうか?
福沢諭吉の「学問のすすめ」は今も通用するものがあるが、いささか古びて来たと思う。中江兆民の「三酔人経綸問答」は、現代にそのまま通じる普遍性、鋭い分析、多様性ある思考法、という点でいささかも古くなっていないと思った。
これは名著だ!
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2012.07.25 | | コメント(3) | トラックバック(0) | 歴史・文化