吉原花魁哀史





吉原花魁日記 光明に芽ぐむ日 (朝日文庫)吉原花魁日記 光明に芽ぐむ日 (朝日文庫)
(2010/01/08)
森 光子

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春駒日記 吉原花魁の日々 (朝日文庫)春駒日記 吉原花魁の日々 (朝日文庫)
(2010/11/05)
森 光子

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吉原はこんな所でございました 廓の女たちの昭和史 (ちくま文庫)吉原はこんな所でございました 廓の女たちの昭和史 (ちくま文庫)
(2010/10/08)
福田 利子

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森光子(1905~不明)
同姓同名の女優とは別人。群馬県高崎生れ。貧しい職人の家庭に育ち、1924年、19才で吉原の「長花金楼」に売られる。源氏名は春駒。約2年後、雑誌で知った歌人の柳原白蓮を頼りに吉原から脱出。1926年「光明に芽ぐむ日」、1927年「春駒日記」を出版。その後、結婚。晩年の消息は不明。

心を強く揺さぶられる凄い記録だ。作者自身の壮絶な経験を綴ったノンフィクションである。2作品に分かれているが「春駒日記」は「吉原花魁日記」の続編・完結編とも言うべき内容で、より一層、感動的である。

これらは有名な「女工哀史・野麦峠」に勝るとも劣らぬ貴重な「吉原花魁哀史」の記録である。何故かというと、江戸時代~明治時代の吉原については様々な資料はあっても、花魁・女郎による「生声」や「記録」はほとんど無いからだ。

それはそうであろう。卑しい身分として差別され軽蔑された彼女達が、…しかも、その殆どは教育も受けていない…、が自分の恥をわざわざ晒すような記録をどうして自ら残すことが出来ようか?

著者の森光子はそれでも高等小学校の教育を受け、また、石川啄木を好む文学少女であり、天性の才能もあったからこそ、こうした他に類の無い記録を残せたのであろう。また、当時(大正末期~昭和初期)の吉原には花魁が本を読むくらいの「自由」はあったようだ。


客の一人から「君は好きな立派な着物が着れて、仕事は楽だし、性欲には不自由しないし…」と言われ、猛然と反発した作者の次の言葉は壮絶で哀しい。

「牢屋に入って、5年も6年も出られないあなただと思ってご覧なさい。そのあなたが、どんなに立派な着物を着たって、それをあなたは喜んでいられますか?…性欲に不自由ないなんて、まさか、マムシや毛虫を相手に、性欲は満足出来ないでしょう。却って、わたしなんか、女工の方が羨ましいと思っているのよ。女工にでもなって、婦人運動の中にでも入れてもらって、うんと働きたいわ。呪わしい世の中にね」

春駒が吉原を脱出した後、「長花金楼」の花魁達が遂にストライキに立ち上がるエピソードは感動的である。大正天皇の御大喪の日でも無休で働かせようとする楼主の仕打ちに怒った花魁達が労働を拒否したのである。

小林多喜二の「蟹工船」にも、指導者に率いられた労働者達が鬼の「監督」に対し、ストライキを起こす場面があり、この小説のクライマックスとなっている。しかし、吉原の花魁達のストライキは実話であり、特別な指導者が居たわけでもない。しかも、女性だけで。だからこそ、よりリアルな感動がある。



「吉原はこんな所でございました・廓の女たちの昭和史」 (ちくま文庫)は、「引手茶屋」の女主人による記録である。「引手茶屋」とは、吉原に遊びに来たお客を迎え、芸者を呼んでお客をもてなし、その後に「大見世」(上級クラスの花魁を抱える楼)に送るのが商売。

昭和期前半の吉原の仕組みを分かり易く説明しているが、時代の証言にもなるような驚くべきエピソードもある。

昭和16年ころ、吉原から「従軍慰安婦」を出すようにという「軍命令」があったと。花魁の中には自ら進んで従軍慰安婦になる例もあったという。理由は借金や年季奉公がチャラになるから、憧れの軍人と一緒に行動したい等であったという。

しかし、各地の戦場で死んだ軍人には「軍人遺族年金」が支給されたのに、同じく戦場で死んだ従軍慰安婦は名簿すら残っていないそうだ。

この辺のエピソードについて著者は淡々と語るが、理不尽なあり方への憤りと、花魁達への同情が感じられる。森光子も語っているが、花魁にとって最も「過酷な労働」は軍人を相手にすることだった。一日に相手をする人数が多く、しかも「玉代」(客が支払う遊び代)が格安だったと。

最近もまた、「従軍慰安婦問題」で騒がしいが、これらの本は東京と大阪の某首長さんにも是非読んで欲しいものだ。

※若い読者層を意識しているのか、最近の文庫本のカバー装画は、アニメ風なタッチのものが目につく。その良し悪しは一概に言えないが、この本の内容の深刻さと、少女漫画風のカバー装画のアンバランスにとても違和感を覚える。


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2012.09.04 | | コメント(4) | トラックバック(0) | 歴史・文化



コメント

表紙イラストは

片割月さま、こんにちは。興味深い本のご紹介、ありがとうございます。これは読んでみたいですね。

ところで表紙イラストの作者ですが、漫画家のこうの史代ですね。
非常に繊細な描写で日常を綴る作家です。全ての作品が家族を中心とした日常の物語
なのですが、滑稽な中にもどこか毒があり、また美しくもある。無理矢理例えると樋口一葉的
とでも申しましょうか。

そうした作風はそのままに、広島で被爆した一少女と彼女の家族を二つの時代に
分けて描いた「夕凪の街 桜の国」は傑作です。

淡々とした描写の中に、理不尽な運命に対する怒りがあり、また、人々に対する深い憐憫
もある。もし未読でしたら是非読んでみて下さい。

私も昨今の、小説の表紙に漫画家を安易に起用する風潮はイヤですね。合っていればいいん
ですけど最近の物の大半はあまりにも客寄せ候で。昔集英社文庫で「車輪の下」に萩尾望都、
「伊豆の踊り子」に林静一、みたいなのはよかったですが。

こうの先生の場合はファンの贔屓目もありますが、先述のとおりの作風の方ですので、
この本の表紙にはいいんじゃないんかなー、なんて思います。

2012/09/05 (水) 21:01:38 | URL | バンビーナ #z1uogJ6Q [ 編集 ]

Re: 表紙イラストは

バンビーナ様、お久しぶりです。

>漫画家のこうの史代

あら、ホントだ。知らなかったです。

>無理矢理例えると樋口一葉的

と言われちゃうと、一葉ファンの私は弱いです(^。^;)

ひとつ、読んでみっか!

ひところ、角川文庫の夏目漱石では、漫画家のわたせせいぞう氏が表紙のイラストを担当してましたね。

びっくりしたけど、こちらはそれほど違和感は覚えませんでした。

何故かと言うと、わたせ氏の比較的シンプルでピュアな落ち着いた画風の為だと思います。

そういえば、太宰治の「人間失格」の表紙イラストが、若い人にとても受けたことがありましたね。

これに味をしめたか?(^<^)

「吉原花魁日記」「春駒日記はお薦めですよ(#^.^#)

やはり、平安王朝時代の「かげろふ日記」「枕草子」に始まる女流日記文学の伝統かな?

2012/09/06 (木) 01:33:25 | URL | 片割月 #- [ 編集 ]

片割月様、こんにちは。お題の本とはあんまし関係ない話にレスしていただき、恐れ入ります(苦笑)。

樋口一葉いいですよねえ。まだ言文一致がモヤモヤしていた時代のせいか、最初はちょっととっつき
にくいんですけど、なんとも言えない美しさがあります。貧しい人々ならではのドロドロした人間関係
すらも、ある種の滑稽美というか、悲劇美があって。

> ひところ、角川文庫の夏目漱石では、漫画家のわたせせいぞう氏が表紙のイラストを担当してましたね。

あー、そうでしたね。懐かしい! 彼に限らず、もともとの絵柄がイラストっぽい漫画家だと
違和感ありませんね。

で、話変わりまして。

吉原に軍の命令がきた昭和16年、その年の5月にバレリーナのエリアナ・パブロワが、軍の慰問の
ために訪れていた南京で、破傷風により命を落としています。もともとは革命を逃れて家族と共に
来日した彼女ですが、日本で最初のバレエスタジオを創り、昭和12年には日本に帰化しました。
没後は靖国に祀られています。

うーん、なんなんでしょうね。この違いは。

2012/09/06 (木) 22:57:29 | URL | バンビーナ #jz9339gE [ 編集 ]

Re: タイトルなし

バンビーナ様、こんばんは。

>貧しい人々ならではのドロドロした人間関係 すらも、ある種の滑稽美というか、悲劇美があって。

おおッ!まさしく、おっしゃる通り。同じ感想をお聞きし、嬉しいです(´∀`*)

明治時代を代表する女流文学者と言えば、樋口一葉と与謝野晶子ですが、何故か昌子は一葉をあまり高く評価しなかったんですよね。どこかに張り合う気持ちがあったのかも。

>バレリーナのエリアナ・パブロワ

鎌倉の?以前、何かのテレビで特集があり、そこで初めて知った覚えがあります。
南京に行ったとは、そして、そこで亡くなり、「軍属」として靖国に祀られたとは驚きです。

>なんなんでしょうね。この違いは。

ウウン。。。色々と、考えさせられますね。

明治維新の大功労者であった西郷隆盛でさえ、祀られていないですしね。

私は一度だけ靖国神社にお参りし、遊就館も見ましたが…驚きの連続でした。

2012/09/07 (金) 00:47:46 | URL | 片割月 #- [ 編集 ]

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片割月

Author:片割月
和歌を愛し、音楽を愛し、花を愛し、フィギュアスケートが大好きで、歴史・社会・文学が大好きで、ジョン・レノン、八代亜紀、ちあきなおみが大好きで、クリント・イーストウッドと映画も好きで、皮肉とユーモアも好きな変わり者アラフォー熟女ですが、よろしくお願いします。
最近は体力をつける為に、休みの日はえっちらおっちらとミニハイキングに勤しんでいます。

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