「レナの約束」とは何か


レナの約束 (中公文庫)レナの約束 (中公文庫)
(2011/02)
レナ・K. ゲリッセン、ヘザー・D. マカダム 他

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「シンドラーのリスト」について触れた時に、半年前に買ったまま読まずに「オクラ入り」状態にしていた本があったのを思い出した。それが「レナの約束」である。

これは「アンネの日記」の続編とも言える内容である。ポーランド系ユダヤ人姉妹、姉のレナ(当時20才)と妹のダンカ(当時18才)はアウシュビッツ収容所に移送される。上の写真の右端がレナ、左端がダンカ。気丈な姉レナの働きにより姉妹は3年間に及ぶ恐ろしい地獄から生還した。その御蔭でこの貴重なノンフィクションが生まれたのである。

殺人工場とも言われたこの収容所で姉妹は他の仲間と共に、想像を絶する過酷な労働の日々を送る。収容所のユダヤ人女性のほとんどは生理が止まる。しかし、レナは止まらない。もちろん生理用品など無い。布切れや雑誌の紙切れなどを探し求める辛さ。情けなさ。わずかな食べ物しか与えられず死んでゆく仲間たち。食べ物を巡る壮絶な戦いが仲間同士で繰り広げられる。言葉では言い表せられぬ程の悲惨さ。死の恐怖に怯えながらの長い日々。

レナは頑丈な身体と冷静な判断力に恵まれ、こうした塗炭の苦しみを乗り越えてゆく。その強靭な精神力の源は何であったのか? 
それは「妹を連れて必ず生きて家に帰る」と心の中で両親と固く交わした約束である。本のタイトル「レナの約束」の意味である。それは「希望」でもあった。希望が生き抜く力を姉妹に与えたのである。凄い。


本の内容をこのように紹介すると、暗くて辛いストーリーばかりで居た堪れなくなるであろう。ところがそうでもないのだ。人間は死と隣り合わせの日々の中にあっても、信じられないような「会話」をする生き物らしい。実際、読んでいて驚くような場面が出てくる。それは以下の会話だ。


…(若いユダヤ人男性)マレクの作業隊は一日じゅう熱心に働いている。(洗濯作業をしている)私たちは話すチャンスがまったくなかったが、ようやく彼が私の方ににじり寄って来て、石(石を包んだメモのこと)を投げる。お互いに無我夢中で仕事をしているふりをしながら、ナチス親衛隊の目を盗んで言葉を交わす。
<いまボーイフレンドはいる?>
とメモにある。わたしは、いない、というように首をふる。
翌朝、わたしたちの会話は続く。
マレク「これまでボーイフレンドと親しい関係になったことがある?」
レナ「いいえ」
こんな質問をされて私がどんなに困るか、彼には分かっていてやっているのだ。
マレク「君は処女なの?」
レナ「もちろんよ!」
マレク「ぼくはワルシャワにいたけど、あそこでは処女に会ったことがなかったぜ」
レナ「ほら吹き!」
そう言って私は洗濯物の陰に隠れる。頬がアイロンのように熱い。まったく、男って!
マレク「赤くなっている!」…


これがアウシュビッツ収容所で過酷な日々を過ごす若い男女の会話なのである。
次のマレクの言葉が実に悲しい。
マレク「僕らはアウシュビッツにいるんだぜ。これ以上、何を困ることがある?」

こうしたレナの明るい逞しさが暗くて重苦しいだけのストーリーを辛うじて救っている。

この本は「アンネの日記」と比べ、あまりに知名度が低い。小中学生に読ませられない内容かもしれないが、ごく限られた空間と時間で書かざるを得なかった「日記」とは異なり、「レナの約束」は収容所への移送から、日々の生活、そして生還までが詳しく描かれているので極めて貴重な資料でもある。もっと多くの人に読まれてよいと思った。

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2012.01.22 | | コメント(2) | トラックバック(0) | 政治・社会



コメント

死にざま

ユダヤ人絶滅施設での凄惨な体験が綴られています。まさに生き地獄です。その一方、多くの場面で描かれた、家族愛、隣人愛、友情、恋愛、そして別れ、人間の尊厳の美しさを再確認できる感動の記録でもあります。

レナは特別な待遇を期待できる身分も技能ももたない囚人。高等教育も受けていない。そんな女性が何故、アウシュビッツの三年間を生き抜くことができたのか。彼女の洞察力、判断力、行動力の素晴らしさは言うまでもないことですが。

ユダヤ教の聖職者の娘、アデラ・グロスが「選別」されるシーンが印象的です。彼女は辛い収容所生活にもかかわらず、若く健康的で驚くほどの美貌を保っている。そして「果敢にも顎を心もち前に突き出している」。その美しさに心うたれるレナ。

しかしアデラは強制労働にすら価値のない者、死すべき列に選ばれ、ガス室へ向かう平台型トラックに投げられる。威厳に満ちた姿で、後から乗せられる弱った娘たちに手を貸し、親切に世話をするアデラ。

彼女も「何らかの理由で紳士方の気に入らない」タイプの女性だったというわけなのか。

ビルケナウの伝令係、マラの最後も強烈でした。公開処刑の直前に自ら剃刀で手首を切り、阻止しようとした親衛隊の顔を殴り、目に指を突っ込んだといいます。

ニュルンベルグ裁判の証言によると、収容所売春施設の女性たちは大きな保証が与えられ、厚遇されていたらしい。「紳士方の御気に召すかどうか」は、その異常な抑圧下を生き抜く、おおきな要因のひとつだったのでしょうか。

レナは人間として魅力的な人物です。肉体的、性的にも異性、同性の関心を惹くタイプであったことが伺えます。わたし個人は、アデラ・グロスやマラのような女性も同様に好きです。

片割月さま、すばらしい本を紹介していただき、ありがとうございました。

2013/05/28 (火) 12:19:11 | URL | コンチェルト #- [ 編集 ]

Re: 死にざま

コンチェルト様、こんばんは。

そうですか!良かった(#^.^#)

良書との巡り合いですが、自分ひとりで発掘する場合もありますが、

私などは人から薦められて読み、「なるほど!」と思うことも少なく無いです。
むしろ、人から勧められた本の方が新鮮な発見がある事も多いです。

本に限らず、音楽、映画等もそうですね。

コンチェルト様も、何かお薦め本がありましたら、教えて下さい。

勧められたら必ず読むとは限りませんが(^。^;)

2013/05/28 (火) 23:59:29 | URL | 片割月 #- [ 編集 ]

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プロフィール

片割月

Author:片割月
和歌を愛し、音楽を愛し、花を愛し、フィギュアスケートが大好きで、歴史・社会・文学が大好きで、ジョン・レノン、八代亜紀、ちあきなおみが大好きで、クリント・イーストウッドと映画も好きで、皮肉とユーモアも好きな変わり者アラフォー熟女ですが、よろしくお願いします。
最近は体力をつける為に、休みの日はえっちらおっちらとミニハイキングに勤しんでいます。

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