名ピアニスト達が鋭く切り返す


二十世紀の10大ピアニスト<br>ラフマニノフ/コルトー/シュナーベル/バックハウス/ルービンシュタイン<br>アラウ/ホロヴィッツ/ショスタコーヴィチ/リヒテル/グールド (幻冬舎新書)二十世紀の10大ピアニスト
ラフマニノフ/コルトー/シュナーベル/バックハウス/ルービンシュタイン
アラウ/ホロヴィッツ/ショスタコーヴィチ/リヒテル/グールド (幻冬舎新書)

(2011/07/28)
中川 右介

商品詳細を見る




これはクラシック音楽好きでなくても、人間学が好きな人ならば誰でも十分に楽しめる本と思った。二十世紀初頭から戦後までの欧米の歴史を背景に、世界の一流ピアニスト達のドロドロとした裏話が展開される。つまり、音楽観賞の上で役立つような話しではなく、個性丸出しの芸術家達の人間ドラマとして楽しむべき本だ。
しかも、著者の中川右介氏は他の著書でもそうなのだが、なかなかのストーリーテラー、名文家と思う。とにかく読ませる。新書だが440ページにもなる分量は読み応えがあった。

特別クラシック音楽好きでなくても、上記の10人の名前の何人かはご存知と思う。
著者は①既に亡くなったピアニスト、②録音が残されているピアニスト、を条件に選んだと言う。
しかし、女の立場からすると、一つ文句を付けたくなる。それは、女性ピアニストが一人もいないことだ。

マルグリット・ロン、クララ・ハスキル、リリー・クラウス、ワンダ・ランドフスカ…ちょっと思い浮かべただけでも、歴史に残る一流の女性ピアニストがこれだけいるのにだ。この辺に男性の中川氏の独断が入っているようだが、まあ、著者の勝手か。中川氏は10人を選んだ経緯を詳しく語っているが、何故女性ピアニストを外したか、全く語っていない。頭から気がつかなかったのだと思われる。

名ピアニスト、つまり、押しも押されもせぬ大家達の生き方はさぞかし華やかで浮き世離れしているかと思われるが、実際は必ずしもそうではない。政治に利用され翻弄され、革命や戦争に泣かされ、ユダヤ人差別に怒り悲しみ、レコード会社やマネジャーの思惑に右往左往させられ、「ライバルの出現と出世」に嫉妬し、張合い、つまらぬ理由で仲違いする等、浮き世にどっぷり浸かった泥まみれの人生が浮き彫りにされる。

ここには面白いエピソードが満載だが、私が一番愉快だったのは、彼等の「切り返しトーク」のユーモアと皮肉っぷりである。切り返しトークはセールスや接客応対の場でも大切な話法だが、彼等は天性の資質か欧州人の特性なのか、日本人の私には思いつかない切り返しをする。
これができれば人生、よほど豊かに過ごせるというものだ。

いくつか例を紹介しよう。
一部会話を補足・省略したことを断っておきます。

①ポーランドの名ピアニスト、パデレフスキは首相にもなったことで知られる。
フランスの時の首相、クレマンソーが歓迎して言う。
「こんなところで偉大なピアニストのパデレフスキにお目にかかれるとは…そしてあなたは今や、ポーランドの首相でいらっしゃる」

パデレフスキが切り返して言う。
「はい。なんと、わたしは落ちぶれてしまったことか」


※どこぞの国の首相さんにも聞かせたいセリフだ。

②同じくポーランドの名ピアニスト、ルービンシュタインはネアカで遊び好きな人柄で知られる。ミヨー、オネゲル、プーランクなど「フランス六人組」として知られる音楽家達とも付き合いがあった。
ミヨーが誇らしげに言う。
「僕らは六人組と呼ばれているんだ」

ルービンシュタインが皮肉で切り返す。
「ロシア五人組より、人数では勝ったわけだな」


※ミヨーがどんな反応をしたか知りたい。ミヨーな顔したとか(^<^)

③同じくルービンシュタイン。大成功に終わったパリでのリサイタル。
ある女優がこう言った。
「うっとりしました。プレゼントをしたいのですが、差し上げるものは私自身しかありません」

ルービンシュタインは後に自伝にこう書いた。
「素晴らしい夜だった」

※ハイ、さすがです\_(^◇^)_/

④同じくポーランドの名ピアニスト、シュナーベル。彼は真面目過ぎる性格が災いし、アメリカのカーネギーホールでのリサイタルは成功とは言えなかった。マネジャーが彼に助言する。
「十の能力があるとしたら、そのなかの五だけを使うのです。そうすれば大儲けできます。そして、次に来た時に、残りの五を取り出せばいいのです」

シュナーベルが真面目に切り返す。
「私が本当に十の能力を持っていたら、私は十五の能力を必要とする仕事にしか魅力を感じません」

※こういうタイプの人は商売向きではない。生きている間はさほど高い評価を得ないが死後には評価が高くなる。

⑤次はロシア生まれの名ピアニスト、ホロヴィッツ。彼の演奏を聴いた先輩格のシュナーベルが楽屋に来てホロヴィッツと次のような会話を交わした。
「ホロヴィッツ君、とても良かったよ」
「でも、マエストロはブゾーニが編曲したリストなどお弾きにならないでしょう」
「私にはバッハだけで時間がいっぱいでね。ああいう類の音楽に費やす時間がないよ」
「僕にはこういう類の音楽を弾いても、またバッハを弾く時間があります」


※大天才だけに許される傲岸さか。

今では作曲家として有名なラフマニノフだが、かなり無愛想な人だったらしい。
ある日、彼はルービンシュタインを自宅に招待した。そこで、ルービンシュタインが弾いたグリーグのピアノ協奏曲のレコードを一緒に聴いた。ルービンシュタインは試験を受ける生徒のような気分だった。レコードが終わると、ラフマニノフは次のように言った。
「ピアノの音程が狂っている」


※いやはや…

関連記事
スポンサーサイト

2012.02.14 | | コメント(8) | トラックバック(0) | 音楽



コメント

切り返しトーク

>切り返しトークはセールスや接客応対の場でも大切な話法だが、彼等は天性の資質か欧州人の特性なのか、日本人の私には思いつかない切り返しをする。<

その代わりに、日本人にはボケと突っ込みという話法がある。

片割月さんのコメントは、突っ込みの絶品ですな(笑)

それにしてもルービンシュタインの③のようなことがさらっとかかれるところが日欧の男女関係に関しての違いなんだろうか?

表面だけを捉えるなら、売春と行為そのものは差が無いように思えるのだが(笑)

違いは

お金を上げる代わりに体を上げる。

お金を上げる代わりに体をいただく。


差し出すほうか、食するほうかの違いで、どちらも金銭の代価であるのだけどね~~。

何で犯罪になるのかね~~。おっとっと、記事の内容から離れてしまう。(笑)

浅ましい本音が(笑)

2012/02/16 (木) 19:21:25 | URL | バルタントモゾウ #- [ 編集 ]

Re: 切り返しトーク

>片割月さんのコメントは、突っ込みの絶品ですな(笑)

お誉めにあずかり、痛み入りますm(__)m

ルービンシュタインと女優の事例ですが、バルタン様の前提が間違っていますわ(^<^)
>お金を上げる代わりに体を上げる。

喜びや感謝の気持ちを行為で表す為に「無償で」差し上げるのですから「売春でも買春」でもないかもよ^^;

>何で犯罪になるのかね~~

人類最古の職業とも言われるくらいですから、全てを犯罪で括るのは不自然ですね。
昔の赤線ではないですが、スウェーデンだかどこかにあるように国の公営としてやればね。

公認されていた吉原の花魁じゃないけど、彼女達にだって己のお勤めにプライドがあったようでありんす。

京都の祇園、舞妓や芸妓はんも、そうどすなあ。

もっとも、ソープランドは事実上「公認」されているようなものでしょう?
そこで何が行われているかは、警察でなくとも中学生でも知っているわ(^。^;)

バルタン星人が地球人の研究・調査の為に、ソープランドに何回お世話になったのかは謎でござるな。

2012/02/16 (木) 21:18:14 | URL | 片割月 #- [ 編集 ]

はじめまして、片割月様。 しどれと申します。
フィギュアと音楽が大好きなので、こちらのブログを見つけて以来、ホクホクしながら過去ログを読み漁っている次第であります。

こちらに紹介された本、私も以前から気になっていたのですが、ミヨーとルービンシュタインの件で少し気になる事が。
実はつい最近、ルービンシュタインの恐ろしく長い伝記を読み終えたばかりで、その会話が描かれた箇所も覚えているのですが、こちらの本に寄れば「5人組に数字では勝った」と言ったのはミヨー本人でした。 (本よりー"They already call us 'the six' - we beat out 'the five' Russians by one number.") なので、きっとちょっとした自虐コメントをウィットを込めて、スタイリッシュに発言したんだろうなぁと言うのが私の想像です。笑。

突然のコメント、失礼しました。 片割月さまのフィギュアの感想も、音楽の記事もとても楽しんで読ませて頂いております。
では。

2013/08/13 (火) 07:20:22 | URL | しどれ #- [ 編集 ]

Re: タイトルなし

しどれ様、こちらこそ初めまして(*^。^*)

もしかして、しどれ様のお名前の由来は音階の「シ・ド・レ」だったりして(^^♪

フィギュアスケートのファンの中には音楽、特に、クラシック音楽が好きな方が多いですよね。

>ルービンシュタインの恐ろしく長い伝記を読み終えた

オオッ、そうでしたか!^^

面白かったですか?

もしかして、和訳版が無くて、英語版だったら、私にはキツイなあ(-。-;

>本に寄れば「5人組に数字では勝った」と言ったのはミヨー本人

ギョッ!!

ど、どうなっているんでしょうね(^。^;)

これはミヨーだな、なんちゃってネ(*^◯^*)

こんなブログでよろしければ、いつでも起こし下さいね(^_^)ノ

2013/08/15 (木) 03:12:43 | URL | 片割月 #- [ 編集 ]

片割月さま、こんにちは。 お言葉に甘えておじゃまさせて頂いてます♪

そうなんです、ご指摘通り、ズバリそれが理由です(笑)、その次に来る音が本名に近いので、そこで止めた次第です。
ルー様の伝記、翻訳版は絶対あると思うんですけど、おそらくもう絶版されています(オリジナルも絶版されているので、多分これは確実かと)。 私は図書館で見つけて読んでいますので、音楽関係の書物を取り扱っている図書館に行けば見つかるかもしれません。
いやはや、全編後編合わせて1000ページ程でしたから、読破まで本当に時間が掛かりました。 しかも人生に起きた様々な事を語ってくれるのは有り難いのですが(ストラヴィンスキーやラフマニノフとも交流があったので、彼らのエピソードもかなり面白いものが聞けたのは嬉しかったです)、肝心の音楽の事について、ページ数の割にあまり書かれてないんですよね・・・涙 美味しい食べ物と女性については延々と書かれているのに。

私も一瞬、もしかしたら自分の思い違いだったかな? と思ってノートを再確認したのですが(気に入った一言やエピソードをメモって置いたのです)、"we" って書いてあるからにはミヨー本人の台詞で正しいと思います。 もしかしたら何かの言語では翻訳ミスがあったのかもしれませんね?

突然のコメントにレスをありがとうございます(ペコリ)
また長々と失礼しました。 では。

2013/08/16 (金) 09:07:22 | URL | しどれ #- [ 編集 ]

Re: タイトルなし

しどれ様、こんばんは。

>ズバリそれが理由です(笑)

大当たり~(^_^)ノ

ルー様ってか^^

ああ、大きな図書館に行かないとダメなんですね^^;

>全編後編合わせて1000ページ程

読み応えがあっていいじゃないですか^^

例のボーヴォワールの自伝もそれくらいの分量でしたよ(^-^;

>美味しい食べ物と女性については延々と書かれているのに。

如何にも!って感じですね(^O^)

>ノートを再確認したのですが(気に入った一言やエピソードをメモって置いたのです)

ミヨーの言葉、確認までしてくれてありがとうございます。

すると、中川氏の勘違いかもしれませんね。

しどれ様はマメというか勉強熱心ですね!

私もメモすることはありますが、出先や通勤電車で読んでいる時はダメですね。

後になって、「素晴らしいエピソードや言葉があったけど、何だったけなあ」と

後悔することしばしばでありんす^^;

2013/08/16 (金) 19:44:00 | URL | 片割月 #- [ 編集 ]

1000P

パソコン基本用語辞典
798P

広辞苑
2667P

アシモフのミステリー世界(ハヤカワSF文庫)
485P

デューン砂の惑星全4巻 約1400P

1000P英文ならしんどいな~~
和訳ものならほど良いくらいの長さだわ

2013/08/17 (土) 02:05:23 | URL | バルタントモゾウ #- [ 編集 ]

Re: 1000P

> パソコン基本用語辞典
> 798P
>
> 広辞苑
> 2667P
>
> アシモフのミステリー世界(ハヤカワSF文庫)
> 485P
>
> デューン砂の惑星全4巻 約1400P
>
> 1000P英文ならしんどいな~~
> 和訳ものならほど良いくらいの長さだわ

まあ、本のサイズ、字の大きさ、行数、段数にもよるわね(´▽`)

源氏物語(原文)は新潮古典文学版なら、約300P×8巻=2400Pで、気が遠くなりますよ。

2013/08/24 (土) 22:46:29 | URL | 片割月 #- [ 編集 ]

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

«  | ホーム |  »

プロフィール

片割月

Author:片割月
和歌を愛し、音楽を愛し、花を愛し、フィギュアスケートが大好きで、歴史・社会・文学が大好きで、ジョン・レノン、八代亜紀、ちあきなおみが大好きで、クリント・イーストウッドと映画も好きで、皮肉とユーモアも好きな変わり者アラフォー熟女ですが、よろしくお願いします。
最近は体力をつける為に、休みの日はえっちらおっちらとミニハイキングに勤しんでいます。

フリーエリア

検索フォーム

Powered By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR