トルストイの映画を見る&ドストエフスキーのことなど







映画「戦争と平和」:旧ソ連作品(1965~1967年制作)
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前からじっくりと見たいと思っていた映画のDVDを中古屋で幸運にもゲットすることが出来ました。なんせ、四部作全7時間!!にも及ぶ超大作ですから、テレビ放映で見るのは物理的・生理的に無理です。

旧ソ連が国の威信をかけ、惜しみなく資金援助して制作した映画ですから、ハリウッドの豪華映画も真っ青になる程の超贅沢な映画です。この点、日本政府は昔から映画業界には冷たいです。どう見ても、芸術音痴・文化音痴の政治家が多いからか。

ナポレオン軍との戦争シーンなど、アメリカの超大作戦争映画と比べてもスケールが桁違い。エキストラだけでも何人の人が出演しているのか。まさに、雲霞のごとき大軍。戦争映画好きな男性はこのシーンを見るだけでも最高の満足感が得られるでしょう。

戦争と平和「舞踏会のシーン」
動画はここです

この舞踏会のシーンも果てることなく延々と続きます。途方もない時間の長さとテンポの遅さ。眠気に襲われますが、この点、DVDだと見直しが出来るので助かります。また、上流階級ものに憧れる女性には楽しいシーンでもあります。女性なら誰でも一度は西洋の立派な館を訪れ、胸の深く空いた高級なドレスに身を包み、素敵な男性とメヌエットを踊ってみたい、と思う。

ナターシャ役の若い女性の風貌は、ロシアの女子スケーター達の顔を思い出します。ヤンキー娘たちの風貌とは違う。しかし、具体的にどこが違うのかと言われれば、私達日本人には識別は難しいですね。でも、違うのです。

ナターシャと踊る恋人役のアンドレイ公爵ですが、この俳優は若い頃の加藤剛さんに似ています。

また、眼鏡のおっさんは物語の主人公であるピエール伯爵役ですが、この俳優さん、イギリスの有名なコメディアンのミスタービーンに似ていて笑えました(^^)

この映画の一番の価値は戦争シーンよりも、主要な登場人物が、「人は何のために生きているのか?」「死とは?」「神とは?」「真の人間の在り方は?」「男女の愛とは?」と問い続ける姿と、成長し変わって行く姿にあります。

ピエールが、兵役にとられた一人の農民との出会いから感銘を受け、変わって行くシーンも感動的に描かれています。

アメリカの映画や日本映画に見慣れた私からすると、物語のテンポや演出が違うタッチなので面食らう点が少なくありません。しかし、それでも筆舌に尽くしがたい静かな感動があります。7時間見る価値のある名作と思います。ソビエト共産党が自慢して良いだけの出来上がり。イデオロギー臭は全く無し。原作を大切にする点からも、トルストイに対する尊敬の程が伺われます。

映画「戦争と平和」には、オードリー・へプバーンが主演したアメリカ版もありますが、こちらはイマイチでした。


「終着駅:トルストイ最後の旅」
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トルストイの資産を巡る妻との泥沼の争いは有名ですし、ついには家出をしたトルストイが田舎の某駅で行き倒れとなって死んだことも有名です。ソクラテスやモーツアルトの例のように、これまではトルストイの妻が一方的に悪妻にされていたのですが、そんな単純な話ではありません。

単純で分かりやすい話には落とし穴があり、複雑で難しい話にはこじつけがあるものです。

映画ですが、文豪トルストイの弱さと強さが同居した人間性に感銘を受けます。

トルストイは大地主の貴族。しょせんはおぼっちゃま育ちのおめでたい「愛と平和の教え」に過ぎない…そういう批判もあります。しかし、彼の唱えた「非暴力の無政府主義」や「人間の生き方を深く捉えた小説」は、明治時代の日本に広く受け入れられました。インドのガンジーが唱えた「無抵抗主義」とも繋がる考え方ですね。トルストイは日露戦争について強く反対を唱え、キリスト教本来の教えである愛と平和を説いたのですね。当時のロシア政府も世界の文豪トルストイには何も言えなかったようです。

明治~昭和初期を生きた新聞人の徳富蘇峰と弟の徳富蘆花(二人はエラク仲が悪かったらしいが)の二人がそれぞれ晩年のトルストイを訪れているのが興味深いです。蘇峰は政府よりの考えに近く、日露戦争を肯定していました。蘆花は反政府的でした。しかし、兄弟どちらもトルストイを深く尊敬していたのです。

保守的な人は、トルストイに限らず、理想を唱える人を、「甘い」「現実は厳しいのだ」と見下す傾向があります。確かに現実は厳しい。だからと言って、理想を忘れ現実に拘泥する生き方も貧困ではないでしょうか。

今日、日本ではトルストイよりも、より現実主義者であるドストエフスキーの方が高く評価されているようです。私は逆の評価をしています。ドストエフスキーの小説は、「死の家の記録」や「罪と罰」は素晴らしいと思いますが、「白痴」「悪霊」「カラマゾフ兄弟」などは、ストーリーが錯綜し雑然としていて、正直、どこが良いのか私にはあまり理解が出来ません。その錯綜した小説ゆえ「何かここには深い思想や人間の不条理が描かれているのではないか」と錯覚させるのであり、実際は、大したことを言っていないのでは?ドロドロとした殺人事件や自殺をアレコレとこねくり回しているだけじゃない?と思うことがあります。

ただし、ドストエフスキーの伝記を読むと、貧しい中にあって彼が如何に優しく、自分が酷い目にあっても困っている人(女性ですが)を助ける姿には感銘を受けます。自分が愛する女性の幸せの為に、その女性が愛する他の男性とが結婚して生活が成り行くよう懸命に働くドストエフスキーは、現代の恋愛ドラマの題材になりそうです。

ドストエフスキーは「作家の日記」の中で、トルストイの「アンナ・カレーニナ」に盛んに毒づき、皮肉を飛ばしていました。そのくせ、トルストイが「死の家の記録」を絶賛していると知るやいなや感激し、「彼とぜひ会いたい!」と言い出します。こういうドストエフスキーという人間味も素敵だなあと思います。結局、二人は一度も会うことはありませんでした。運命か。

なお、トルストイの晩年の著作は宗教臭と説教臭が鼻につくのも事実。小説「復活」もあまりネ。

ちなみに、小説家の石川達三は晩年になると、ストーリー性の無い随筆風というか、能書きをやたら並べた小説を書いていました。最近では五木寛之が仏教に入れ込んでいます。ことほど左様に、晩年になると小説は観念化して、もはや小説というよりは、人生観を述べたエッセイの様相を呈して来るようです。老いて、言いたいことは地のままで言ってみたくなった、ということか。


映画「アンナ・カレーニナ」:2012年版
音楽はフィギュアスケートでも取り上げられましたし、期待して見ましたが失望。途中で止めました。舞台装置のような演出に付いてゆけず。白けました。この手の物語に、奇を衒ったような演出は私の好みにあらず。コメディやB級映画ならオッケーです。



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2015.07.02 | | コメント(4) | トラックバック(0) | 文学



コメント

キチィとアンナ

  片割月さま、ロシア文学と映画! フィギュアスケートとも、関連のありそうな文化ですね。

 私はロシア文学は「よっしゃ!」と気合を入れないと読めません。最近(と言ってもここ二年位)「カラマーゾフの兄弟」「アンナ・カレーニナ」を読んで特にドストエフスキーはもう息絶え絶えで読んでおりました。登場人物の長広舌についていけない。スラブ民族は流石に基礎体力が違います。文学も体力なのだ、とつくづく思いました。

 「アンナ・カレーニナ」では、ヒロイン、アンナと対照的な形でトルストイをモデルにしたリョービンの妻、キチィを彼の理想の女性として描いている様に思えました。悪妻に苦しんでいたのなら、確かに素直で優しく、夫の言うとおりに教育されるタイプの女性が好きなのは判りますね。悪妻は本人にも責任がありますが、夫側にも応分の責任がありますよ! 無垢な少女を自分好みに教育する(?)のが好きだとしたら、女性側は反発するかもしれませんからね。

2015/07/02 (木) 12:12:56 | URL | shige #X91rLkcY [ 編集 ]

Re: キチィとアンナ

shige様、こんばんは。

>私はロシア文学は「よっしゃ!」と気合を入れないと読めません ← ウケた(^^)


>悪妻は本人にも責任がありますが、夫側にも応分の責任がありますよ! 

なんか、いやに、力がこもっているなあ。。。(^_^;)

>無垢な少女を自分好みに教育する(?)のが好きだとしたら、女性側は反発するかもしれませんからね。

ごもっともでありんす。

ところで、少女じゃないけど、昔、「あなた好みの、あなた好みの、女になりたい~♪」という歌が流行ったとか。

21世紀になっても、こういうタイプの女性はいますね。私にはとても無理ネ(-_-;)

2015/07/04 (土) 02:01:31 | URL | 片割月 #- [ 編集 ]

「広大な大地」と「厳寒の冬」

ナポレオンもドイツも征服を許さなかった「広大な大地」と「厳寒の冬」ロシア!

2015/07/19 (日) 14:56:06 | URL | ファントム #- [ 編集 ]

Re: 「広大な大地」と「厳寒の冬」

> ナポレオンもドイツも征服を許さなかった「広大な大地」と「厳寒の冬」ロシア!

すると、日露戦争で何とか勝った日本は凄いですね^^;

日本って凄いなあ←ネトウヨ風味。

2015/07/24 (金) 00:37:35 | URL | 片割月 #- [ 編集 ]

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片割月

Author:片割月
和歌を愛し、音楽を愛し、花を愛し、フィギュアスケートが大好きで、歴史・社会・文学が大好きで、ジョン・レノン、八代亜紀、ちあきなおみが大好きで、クリント・イーストウッドと映画も好きで、皮肉とユーモアも好きな変わり者アラフォー熟女ですが、よろしくお願いします。
最近は体力をつける為に、休みの日はえっちらおっちらとミニハイキングに勤しんでいます。

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